国立西洋美術館に行けば、たいてい常時展示されているのがこの絵画です。
水彩画のバージョン(ロンドン、ウィリアム・モリス美術館蔵)もありますので並べてみました。
解説1 1990年に開催されたロセッティ展の解説
「愛の盃」は「最愛の人」のいくつかの主要部分をー盃そのものや重い首飾りのある衣装だけでなく、姿の見えない恋人の位置にいる鑑賞者への呼びかけのイメージまたー単純化したものと分類できるでしょう。
水彩画の額縁の上に記載されている2行連句は、フランスのバラードからとられたもので、幸福や昼や夜の素朴な祝杯となります。
ロセッティは、古代スペイン風のレースの手のこんだ飾り緑の上に浮彫りを施した銅版ののった棚からなる非常に装飾的効果の高い背景を引き続き取り入れています。
左右対称に配された4枚の銅版がある(「最愛の人」には4つの従者の頭部が描かれていたように)が、そのうち右端のものには、聖書世界の最初の恋人たちアダムとイブの姿がおそらく刻まれていることでしょう。背景を這う蔦は愛の普遍性を象徴しています。
この作品は好評だったので、ロセッティは3枚のレプリカを描きました。
油彩画のモデルはアレクサ・ワイルディングで、水彩画はエレン・スミスで、彼女はバーミンガム美術館蔵の素描でもモデルを務めました。
解説2 朝日グラフ別冊 ロセッティの解説
額縁の上に記載されている「麗しき愛の騎士に/安らかな夜と楽しき日を」という詩句や「愛の盃」という題名は、かの女が世俗的な愛を渇望する中世ロマンスのヒロインであるかのような印象を与えるかもしれないでしょう。
しかし、むしろかの女が聖杯の天使に等しい女性であることは、背後の棚に飾られた打ち出しの細工の真鍮が物語っています。
右端の一枚には禁断の実を食べるアダムとイブの姿を認めることができます。
右から三番目の皿に描かれているいるのは巨大な葡萄を担ぐ男たちの姿です。
これはモーセの命を受けた二人の男がエシコルの谷から持ち帰ったという葡萄の房で、伝統的にキリストの磔刑を予表するものと解釈されています。
つまりこの2枚の皿は原罪(死)と贖罪(再生)とを表しているのです。
そして、かつてキリストの贖罪の血を受けた聖杯をかの女が持っています。
この2枚の皿と聖杯の乙女の間を繋ぐのは、鹿を象った残る2枚の皿です。
鹿のイメージは、「魂」の象徴であり、聖杯のイメージと共に描かれ、つねに「永遠の生命」を表します。
かの女は正しく、永遠に魂の救済と不滅を約束する聖杯を見るものに差し出しているのです。
ロセッティはこの絵画に描かれているような真鍮の皿を実際、寝室に飾っていましたが、それはたとえば「美しき手」の凸面鏡の中に見ることができます。
参考文献
・ロセッティ展の解説
・ 朝日グラフ別冊 ロセッティの解説
最後に国立西洋美術館のこの絵画の解説は以下のリンクからどうぞ
http://collection.nmwa.go.jp/artize/jp/294_P.1984-0005.html
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