19世紀において、入浴場面は裸体を容認する重要な主題であり、清潔、衛生、合理的なレクリエーションという価値観を再導入する役目も果たしました。
古代ローマの洗練された水浴の習慣はヴィクトリア朝の人々を殊に魅了したので、ふざけあう女性を描いても不道徳だと見なされかねないアルマ=タデマの作品にも正当性が与えられたのです。
本作品は、アルマ=タデマがローマ浴場を舞台にして描いた最後の作品にあたり、1909年にロイヤルアカデミーに出品され、そのままチャントリー基金を通じて国家の買い上げとなりました。奥行きを出す遠近法によって、鑑賞者の目は、前景の小さな冷浴場(フリギダリウム)から、衣服を置くための棚やスポンジが並ぶ女性の更衣室(アポディテリウム)を通り、社交と運動の場である、明るい陽光が射す列柱廊に導かれます。
ここでの冷水風呂は、殊に身を引き締めるような苦痛の場ではなくて、他の入浴主題の作品と同じく、衛生よりも楽しみや遊びの面が強調されていて、水面、大理石、衣服、花、そしてとりわけ入浴する若い娘達の濡れて湿った肌など、物の表面のコントラストにの抽出に重点が置かれています。
舞台となっている部屋は、1824年にボンペイで発掘された、紀元後1世紀のスタビア浴場を再現したもので、男性浴場と女性浴場の両要素が組み合わされ、豪華な内装の効果をあげるために、ヒルデスハイムの銀製クラテルなどの工芸品が加えられています。
考古学的調査を基に設定した舞台に、2人の少女が戯れる浮博な情景を描き出した本作品は、アルマ=タデマの典型的な画風を示しています。
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